「うちの社員は、やる気がないわけじゃない」
そう感じたことはありませんか。実際、老舗企業のベテラン社員は真面目に、誠実に日々の業務をこなしています。遅刻もせず、任された仕事は最後まできっちりやり遂げる。それでも会社が変われないのだとしたら、原因はやる気ではなく、別のところにあるのではないでしょうか?
「気合い」で乗り越えようとしていないか
会社が変わらない理由を、多くの社長は「社員の意識」の問題だと考えがちです。「もっと危機感を持ってほしい」「もっと積極的に動いてほしい」と。朝礼や会議の場で、社員の意識に訴えかける言葉を重ねてしまう社長も少なくありません。
しかし、これは順番が逆です。仕組みが整っていない会社で、いくら意識だけを変えようとしても、社員は具体的に何をすればいいのか分からず、結局は今まで通りのやり方に戻ってしまいます。
変わらないのは、社員の気持ちの問題ではなく、業務の進め方そのものに構造的な問題があるからなのです。
属人化という、目に見えない足かせ
老舗企業に特有の問題が、業務の属人化です。長年の商習慣が積み重なった結果、誰も意識しないまま、こうした状態が当たり前になっている会社は少なくありません。
- 取引先ごとの発注タイミングや相場感が、特定の社員の頭の中にしかない
- FAXと電話でのやり取りが日常業務の中心で、記録として残っていない
- ベテラン社員が休むと、その業務が丸ごと止まってしまう
- 新人が入っても、誰も体系立てて教えられず、見て覚えるしかない
こうした状態では、いくら社員一人ひとりが頑張っても、会社全体としての効率は一向に上がりません。一人が実践できても、会社全体としては不十分なのです。仕組みがない状態では、優秀な社員が入っても、その力を発揮しきれないまま埋もれてしまいます。
むしろ、属人化が進んだ会社ほど、真面目な社員ほど自分一人で抱え込んでしまい、疲弊していく傾向すらあります。周囲に助けを求めることもできず、黙々と一人で処理し続けた結果、体調を崩して長期離脱してしまうケースも実際に起きています。
トップダウンの号令が失敗する理由
他方で、属人化の問題に気づいた社長が、しばしば取ってしまう対応が「一斉導入」です。「来月から全員でこのツールを使いましょう」という号令をかけるやり方です。効果を急ぐあまり、多くの社長がこの落とし穴にはまってしまいます。
しかし、このやり方はほとんどの場合、失敗します。準備が整っていない現場に一気に負荷がかかり、混乱と反発を招くからです。
ある卸売会社では、社長が良かれと思って新しい業務システムを一斉導入したところ、現場から「覚えることが多すぎる」「今まで通りの方が早い」という不満が噴出し、半年後には誰も使わなくなっていました。導入にかけた費用も時間も、結果として無駄になってしまったのです。
仕組みが変われば、意識は後からついてくる
大切なのは、意識を変えようとする前に、仕組みを変えることです。会社を良くしたいという思い自体は、多くの経営者が同じように強く持っています。
一人の社員が抱えていた業務を、誰でも分かる形に整理し、少しずつ仕組み化していく。この順番を守った会社では、結果として社員の意識も自然に変わっていきます。
「やる気を出させる」のではなく、「やる気が自然と湧いてくる環境を作る」という発想の転換が必要です。仕組みが整い、日々の負担が軽くなった実感を持てて初めて、社員は次の変化にも前向きになれるのです。
次章からは、この仕組み化を、社員の反発を招かずにどう進めていくのか、具体的な考え方をお伝えしていきます。「聴く」ことから始め、最初の一つの業務に絞って進める、その具体的な手順です。
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