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2-3:トップダウンで「AIを使え」と号令をかけた社長がことごとく失敗する理由

「よし、来月から全社員でこのツールを使おう」

事業承継直後、意気込んでこう宣言した経験はありませんか。新しい社長として、何か目に見える成果を早く示したいという気持ちも、きっとあったはずです。良かれと思って出した号令が、なぜか現場では歓迎されず、むしろ距離を置かれてしまう。

この現象には、はっきりとした理由があります。仕組みの問題を、社員の意欲や理解力の問題だと誤解してしまうと、対策は見当違いなものになります。

目次

トップダウンが失敗する、構造的な理由

一斉導入という手法自体に、根本的な問題があります。それは、準備ができている社員も、できていない社員も、同じタイミングで同じ負荷を強いられるということです。個々の社員の習熟度の差が、まったく考慮されないまま進んでしまうのです。

デジタルツールに慣れている若手社員はすぐに使いこなせても、長年FAXと電話で仕事をしてきたベテラン社員にとっては、覚えることが一気に押し寄せる状態になります。

この負荷の差が、社内に不公平感と混乱を生みます。同じ号令を受け取っても、その受け止め方は世代や経験によってまったく異なるのです。

号令をかけた社長が見落としているもの

トップダウンで号令をかける社長には、共通した見落としがあります。急いで成果を示したいという気持ちが先に立つあまり、現場側の負担への想像力が追いついていないことが多いのです。

  • 新しいやり方を「覚える時間」を、業務時間内に確保していない
  • 質問や不安を相談できる窓口を、用意していない
  • 「使えて当然」という前提で、進捗を確認してしまう
  • 失敗しても許容される空気を、作れていない
  • 進め方について、事前に社員の意見を聞いていない

これらが揃っていない状態で号令だけをかけると、社員は表面上「分かりました」と答えながら、実際には元のやり方に戻ってしまいます。社長からは見えないところで、旧来のやり方がひっそりと継続されるのです。

表面的な報告と、現場の実態が食い違ったまま、時間だけが過ぎていきます。社長本人が気づく頃には、すでに数ヶ月が経過していることも珍しくありません。

実際に起きた「号令だけの失敗」

ある卸売会社の社長は、事業承継後すぐに「来月から在庫管理を新システムに一本化します」と社内全体に告知しました。周囲の期待に応えたいという焦りもあり、スピード重視で進めた結果でした。

しかし、具体的な使い方を教える機会は一度きりの説明会だけで、その後のフォローはありませんでした。結果として、多くの社員が使い方につまずいたまま質問できずにいて、気づけば半分以上の社員が元の紙の台帳に戻っていました。誰も悪気があったわけではなく、ただ質問する相手も時間もなかっただけなのです。

社長は「なぜ言った通りにやってくれないのか」と苛立ちを覚えましたが、実際には、社員が悪いのではなく、フォロー体制のない号令そのものに無理があったのです。後になってこのことに気づいた社長は、進め方を根本から見直すことになりました。この気づきが、次の一歩を踏み出す大きなきっかけになったといいます。

号令の代わりに必要なもの

一斉導入がうまくいかない理由が分かれば、取るべき対策も見えてきます。全員に一度に求めるのではなく、まず一人、あるいは一つの部署から始め、丁寧にフォローしながら成功体験を作っていくことです。小さく始めて確実に成功させることの方が、遠回りに見えて実は最短の道です。

次の記事では、一気に全部を変えようとした社長が、社内の求心力を失ってしまった、より具体的な実例を見ていきます。範囲を広げすぎたがゆえに起きた、より深刻なつまずきです。

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