「ベテランの営業部長に嫌な顔をされるくらいなら、今のままでいい」
そう思って、言いたいことを飲み込んだ経験はありませんか。会議の場で本当は伝えたかったことを、その場の空気を読んで引っ込めてしまう。角を立てたくない、社内の空気を悪くしたくない。その気持ちはとても自然なものです。しかし、この「遠慮」こそが、実は会社を静かに弱らせていく最大の原因になっていることがあります。
遠慮は「優しさ」ではなく「先送り」になっている
社長が遠慮している間も、会社の課題は止まってくれません。属人化した仕入れ業務、紙とFAXでのやり取り、非効率な受発注。
こうした問題は、社長が気を遣って言い出せずにいる間も、静かに会社の体力を奪い続けます。遠慮とは、優しさに見えて、実は問題の先送りに他ならないのです。しかも厄介なことに、先送りされた問題ほど、後になって大きな痛みを伴って社長に返ってきます。
例えば、ある地方の卸売会社では、社長が「今は言うタイミングではない」と数年にわたって業務改善を先送りにしていました。ようやく重い腰を上げたときには、担当していたベテラン社員が体調を崩して長期離脱しており、誰も業務の全体像を把握できないという事態に陥っていました。
遠慮していた期間の長さが、そのまま会社のリスクとして積み上がっていたのです。
「言わない社長」を、社員はどう見ているか
意外に思われるかもしれませんが、多くの社員は「言わない社長」を必ずしも優しいとは感じていません。むしろ、次のように受け止めていることがあります。
- 「社長は本当は何を考えているのか分からない」という不信感
- 「うちの会社は、このままでいいと思われているのだろうか」という将来への不安
- 「言われないから、今のままでいいんだ」という現状維持への安心
つまり、社長が遠慮して黙っていることは、社員にとって「優しさ」ではなく「方向性のなさ」として伝わっている可能性があるのです。実際、ある卸売会社の若手社員は「社長がもっとはっきり言ってくれた方が、正直やりやすい」と語っていました。
若手にしてみれば、方向性が見えないまま日々の業務をこなすことの方が、よほど不安なのです。ベテラン社員側も、実は同じ不安を抱えているケースが少なくありません。
遠慮が積み重なった会社に起きること
遠慮を続けた結果、何も変わらないまま数年が経ってしまった会社では、次のようなことが静かに進行します。
属人化した業務はさらにブラックボックス化し、ベテラン社員が抜けた瞬間に業務が止まるリスクが高まります。若手社員は「この会社に将来性はあるのか」と感じ始め、優秀な人材から順に離れていきます。そして何より、社長自身が「自分の代で会社を良くできなかった」という後悔を抱えることになります。
遠慮によって守ろうとした社内の空気は、結局のところ何も守れていないのです。取引先との関係も同様で、担当者の記憶だけに依存した対応は、いずれ引き継ぎの場面で綻びとなって表面化します。
遠慮をやめることは、対立を意味しない
大切なのは、遠慮をやめることと、社員と対立することはまったく別だという点です。多くの二代目社長は、この二つを混同してしまうがゆえに「言えば対立する」と考え、口をつぐんでしまいます。しかし実際には、伝え方さえ順番を間違えなければ、遠慮をやめても対立は起きません。
次章以降でお伝えするのは、番頭格の社員と衝突せずに、むしろ味方につけながら変化を進めていく具体的な方法です。遠慮して黙ったままでいる必要も、強引に押し切る必要もありません。まずは「自分は遠慮しているだけで、何も解決していない」という事実に気づくことから、次の一歩が始まります。
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