「何か提案する前に、まず話を聴きましょう」
これまでの章で繰り返しお伝えしてきたことです。分かってはいても、いざ実行しようとすると、意外と難しいものです。日々の業務に追われる中で、腰を据えて話を聴く時間を確保すること自体、簡単ではありません。
しかし、実際に「聴く」とは、具体的にどう進めればいいのでしょうか。ただ雑談するだけでは、この目的は果たせません。
一回では足りない、二回対話という考え方
効果的なのは、一人の社員に対して、時間を空けて二回の対話の機会を設けることです。一度きりの面談で全てを聞き出そうとすると、かえって相手を身構えさせてしまいます。忙しい業務の合間だからこそ、あえて二回に分けることが効果的です。
一回目は、これまでの苦労や不満を、ただひたすら聴くための時間です。二回目は、一回目で聴いた内容を踏まえ、少し踏み込んだ話をするための時間です。この二段階に分けることで、社員は安心して本音を話せるようになります。
一回目の対話で、絶対にしてはいけないこと
一回目の対話で最も大切なのは、社長が「聴く側」に徹することです。話す割合を意識するだけでも、対話の質は大きく変わります。
- 相手の話を、途中で否定しない
- 「でも」「それは違う」と、反論から入らない
- 解決策をその場で提示しようとしない
- 沈黙が生まれても、焦って話題を変えない
- メモを取りながらも、目線は相手にしっかり向ける
この段階で社長が話しすぎてしまうと、社員は「結局、社長の言いたいことを聞かされる場だった」と感じ、心を閉ざしてしまいます。
あくまで主役は社員自身です。聴く時間の割合は、体感で八割以上を目安にすることをおススメします。社長として持論を語りたくなる気持ちをグッとこらえていただくことが、実は何よりも大切だったりします。
一回目で聴くべき、三つの質問
一回目の対話では、次のような質問を投げかけると、自然に本音が引き出しやすくなります。何を聞くかよりも、どんな姿勢で聞くかの方が、実は結果を左右します。
- 「今の仕事の中で、一番時間がかかっていると感じることは何ですか」
- 「もし時間があれば、もっとこうしたいと思うことはありますか」
- 「これまでのやり方で、大事にしてきたことは何ですか」
この三つを軸にしながら、相手の答えに応じて自然に会話を広げていくとよいでしょう。答えが一言で終わっても構いません。無理に深掘りせず、相手のペースに合わせることが大切です。
これらの質問は、相手を否定せず、むしろその人の経験に敬意を払う形になっています。答えを急かさず、じっくり時間をかけて聞く姿勢そのものが、相手への敬意の表れになります。
二回目の対話で、初めて踏み込む
二回目の対話は、一回目から少し時間を空けて行います。一週間から二週間ほど間を置くと、社員自身も自分の考えを整理する余裕が持てます。この間に、日々の業務の中で新たに気づいたことが出てくることもあります。ここで初めて、社長は聴いた内容を整理して伝え返し、「こういう理解で合っていますか?」と確認します。
この確認のプロセスがあることで、社員は「自分の話がちゃんと届いていた」と実感できます。この実感の積み重ねこそが、その後の信頼関係を支える土台になります。
誰かに真剣に耳を傾けてもらえた経験は、思っている以上に相手の心に残るものです。そして、この信頼関係の土台があってはじめて、次に紹介する業務選定の話へと、自然につなげていくことができます。
次の記事では、こうして聴き取った業務の中から、最初に着手する一つをどう選べばいいのか、具体的な基準を見ていきます。聴くだけで終わらせず、次の行動につなげることが何より大切です。
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