「業務効率化のために、AIを導入します」
この言葉を聞いて、心から前向きになれる社員は、実はそれほど多くありません。効率化という言葉からは、どこか「会社のための我慢」というニュアンスを感じ取ってしまうからです。
よかれと思って使う言葉が、かえって距離を生んでしまうこともあります。伝え方一つで、協力してもらえるかどうかが決まる、と言っても大げさではありません。
「会社のため」では、人は動かない
多くの社長が使ってしまいがちな言葉に、「会社の成長のため」「業績向上のため」があります。これらの言葉自体は間違っていません。
しかし、日々忙しく働いている社員にとって、会社全体の利益は、自分ごととして実感しにくいものです。会社の決算書の数字を見て感情が動く社員がほとんどいないのと同じです。会社の現状と自分の現状とは、なかなか結びつきませんよね。
結果として、社員は表面上うなずきながらも、心のどこかで「また社長の都合か」と感じてしまいます。この温度差が、変化への協力を鈍らせる一因になっています。表面的な同意と、実際の行動との間には、意外なほど大きな溝があるものです。
「あなたのため」に言い換えるだけで変わること
同じ取り組みでも、伝え方を「あなたの時間を取り戻すため」に変えるだけで、受け止められ方は大きく変わります。言葉一つの違いですが、その効果は決して小さくありません。
例えば、毎日一時間かかっている在庫確認の作業を効率化する場合、次の二つの伝え方を比べてみてください。実際にどちらが心に響くか、想像しながら読んでみてください。
- 「業務効率化のため、在庫確認をAIで自動化します」
- 「あなたが毎日費やしている一時間を、もっと大事なことに使えるようにしたいんです」
取組みは同じなのに、伝え方を変えているだけです。しかし、後者には「あなた自身の時間が豊かになる」という視点が含まれています。この視点があるかないかで、社員の受け止め方はまったく違うものになります。
誰のための取り組みなのかが、言葉の主語一つで変わってしまうのです。主語を会社から個人へ移すだけで、心の距離は一気に縮まります。
大義名分は、具体的であるほど響く
「あなたのため」という言葉も、抽象的なままでは効果が薄れてしまいます。効果的な大義名分には、具体性が欠かせません。ふわっとした言葉は、右から左へ聞き流されてしまいがちです。どれだけ良い意図があっても、伝わらなければ意味がありません。
ある卸売会社の社長は、こう伝えました。「今、発注確認に毎日1時間かかっているよね。それが10分になれば、お子さんの寝かしつけに間に合う日も増えるんじゃないかな」。相手の家庭の事情まで踏まえた、個別の言葉でした。
この一言には、業務時間の削減という事実だけでなく、その先にあるその人自身の生活まで見えています。具体的であればあるほど、社員は自分ごととして受け止めやすくなります。数字だけでは動かない心も、生活の一場面が見えると動き出すものです。
大義名分を作るときの、ちょっとしたコツ
効果的な大義名分を作るには、次のことを意識してみてください。特別な話術ではなく、相手をよく見ることから、すべてが始まります。
- その社員が普段どんな悩みを抱えているか、事前に把握しておく
- 業務の削減時間を、具体的な生活の場面に結びつけて伝える
- 一律の言葉ではなく、一人ひとりに合わせた言葉を選ぶ
- 数字だけでなく、その先にある感情の変化まで想像して伝える
次の記事では、こうして洗い出した業務を、どう分類すれば次の一手が見えてくるのか、具体的な仕分け方をお伝えします。伝え方が固まった次は、実際に何から手をつけるかという段階に進みます。
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